流れるままに
アールティヒがルミナと共に旅を始めてから半年の月日が流れ―
行く先々で世界の神秘に目を輝かせ、
ときには辛い思いを経験し、それを乗り越え、ひよっこ冒険者は少しずつ成長していった。
すっかり旅慣れした少女の姿は、まだ幼さの残る顔立ちを除けば冒険者のそれだった。
自然の成り行きに身を任せるように旅を続けてきた二人は、
護衛のクエストも兼ねて新たな村へ足を踏み入れた。
「ありがとうございました。 お陰様で無事に帰って来れました」
丁寧に深々とお辞儀をする老人は、
この村の生まれで、旅の道中に様々な思い出話を聞かせてくれた。
特に二人の興味を引いたのは占い師の話だ。
昔から、よく当たると評判で、こんな寂れた村にも遠方から訪ねてくる人間は多かったという。
しかし、ある時期を境に占うことをやめてしまったのだとか。
老人の背中を見送りながら、二人は自然と興味のあった占い師のことを話し始める。
「どうして占いをやめちゃったのかな」
思い出深い大切なマントに身を包み、
旅を続けるうちに長く伸びた髪を風になびかせるアールティヒ。
「見たくないものを見ちゃった、とか?」
それは人の将来か、あるいは世界の未来か。
よく当たる占いと聞けば心が躍りそうになるが、
占い師の立場になり “ 見えてしまうこと ” の苦悩を思うと、複雑な気持ちになった。
世界が綺麗で美しいものだけならば、どんなに素晴らしいだろう。
そんな風に思いを馳せるアールティヒの脳裏に、ふと浮かんだもの。
草原の村に残された伝承
創造した世界を見守っていた神
やがて訪れる世界の歪み
叶えられなかった聖女の願い
残された箱庭―
占うことをやめてしまった占い師のことが、なぜか気になって仕方がなかった。
冷えた風に髪とマントをなびかせたまま、その場に立ちつくすアールティヒ。
そんなアールティヒに寄り添うルミナもまた、少女が何度か聞かせてくれた伝承に思いを馳せていた。
このまま立ち止まっているわけにはいかない。
そう思った。
「行ってみる?」
迷いの生まれていたアールティヒは、すぐに返事をすることはできなかったが、
遠くを見つめたままの瞳に少しずつ強い意志が宿っていった。
一つ大きく深呼吸をし、ぎゅっとマントの結び目を握りしめた。
「うん。 行ってみよう」
遠くに見えるドーム状の建物。
おそらく、あれが占い師の住んでいる家だろうと、二人は並んで歩きだす。
「なにを考えてたの?」
「んー…多分、同じこと! だから背中を押してくれたんでしょ」
「かもね」
明確な答えなどないやり取り。
それでも二人は互いの想いを理解していた。
その嬉しさは心に温もりを宿らせ、二人の足取りは寒さに負けない確かなものへと変わっていった。
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