かわいい魔女さん





『かわいい魔女さん』 を聴く





占い師が住んでいると思われる建物の玄関前まで辿り着いた二人は、
そこで歩みを止め、自然と目を見合わせた。

いつだって傍で守ってくれるルミナの力強くも優しい眼差しは、
どんな不安も消し去ってくれる。

その想いに笑顔で応えると、しっかりと握りしめた拳で扉を軽く叩いた。

少女の勇気を試すような脅威が目の前に迫っていることにも気づかずに…


次の瞬間、扉は勢いよく開け放たれた!


同時に暗がりから放出された煙が瞬く間に二人を包み込み、
そんな二人を嘲笑うかのように扉の奥から何かが飛び出してきた。

「がぉー!!」

…なんとも迫力のない咆哮が響き渡る。

その可愛らしい声色に警戒心は完全に解け、ただただ静寂だけが訪れた。

冷えた風に流された煙が霧散し、そこには…

いまにも襲いかかりそうな体勢のまま固まっている白い布のオバケと、
まったく動じずに、じっとオバケを見つめる少女の姿があった。

「…オバケだぞ?」

自らの存在を否定するような疑問符のついたセリフは、
なんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。

よく見てみると、白い布のオバケには様々なデコレーションが施されており、
その可愛らしさは中に潜んでいるオバケの正体が、どういう子なのかを如実に表しているように思えた。

「これ、すごく可愛いね」

アールティヒが白い布の端を掴んで、ひらひらとなびかせながら中の子に呼びかける。

「もー! 調子狂っちゃうなぁ…」

そう言いながら白い布から出てきた子は、
想像した通り、みるからに無邪気で元気いっぱいという感じの小さな女の子だった。

ツインテールに結われた長い髪は風に吹かれ、
膨れっ面の少女とは正反対に、楽しそうに舞ってみせた。
その幼さを感じさせる髪型にアールティヒは懐かしさを覚えた。


(私もこんな感じだったのかな?)


ほんの少しだけ、お姉ちゃん気分を味わった。


「ばーちゃんに会いに来たんでしょ?」

よくあることなのか、少女はこちらの目的を言い当ててみせた。
頷いてみせると少女の顔は少し微妙なものへと変化した。

「ばーちゃん、占いやめちゃったんだよね」

この子と占い師である老婆の関係性は、まだ分からない。
それでも、その物悲しさを滲ませる表情からは老婆を想う気持ちが伝わってくる。

「知ってるわ。 私たちは、ただお話を聞かせてもらえたらと思って」

「ふーん、へんなの」

占いが目当てではないことが分かると、
気のない返事とは裏腹に、その瞳には好奇心が宿っていった。
その心の内では、もしかしたら老婆の気も紛れるかもという気持ちを秘めていた。

「いいよ、案内してあげる!」

瞳に輝きを取り戻した少女は、心底嬉しそうに、くるっと半回転してみせた。
少女の動きに合わせて、ふわっと舞うツインテールは、今度こそ少女の気持ちとシンクロした。

「こっちだよ!」

上機嫌ぶりを全身で表現しながら前を歩く少女に付いていく。

「あっ…」

廊下を中ほどまで進んだところで、急に少女が立ち止まった。

「すごく綺麗な音…」

そう呟いた少女は、また軽快な半回転をして振り返り、アールティヒの顔を、じっと見つめた。

「どうしたの?」

不思議そうに首を傾げるアールティヒ。
“ 綺麗な音 ” が、なにを指しているのかも分からなかった。

だが、すぐ傍でアールティヒを見守っているルミナには、なにか思い当たることがあった。

自分がアールティヒから癒やされるような “ 風 ” を感じるように、
この子には、それが “ 音 ” として聴こえるのだと。


そう考えていた自分が、どんな顔をしているのかは分からなかったが、
少女と目が合った瞬間、なにかが通じ合った。

「ねっ!」

「そうね」

アールティヒの魅力を共有した二人は、なんだか嬉しい気持ちになった。

「え? なになに?」

癒やしの風と綺麗な音の持ち主は、そんな二人を交互に見る。

「秘密だよ♪」

「秘密」

「えー? 気になる〜」


「そう言えば自己紹介がまだだったわね。 私はルミナ」

「私はアールティヒだよ」

「あたしティーエ! ティーちゃんって呼んでね♪」


運命の日に出会った少女は、とってもかわいい魔女さんでした。





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