心をひとつに





『心をひとつに』 を聴く





「ばーちゃん、ただいまー!」

村の入口で出迎える老婆の姿を見つけるや否や、嬉しそうに駆けていくティーエ。
その愛くるしい背中に光り輝く翼が見えた気がした。

「もう歳なんだから家で待ってても良かったのに」

「なぁに、寂しがり屋の “ 娘 ” が帰って来るんだ。 これくらい、なんてことはないさ」

「…ばーちゃん、大好き!」

そこには互いを想い合う家族の絆が確かに存在していた。



微笑ましい光景に心を和ませながら遅れて到着する一行。

「お婆さま、お久しぶりです」

懐かしさを滲ませた声で老婆に話しかけるイリゼ。

「イリゼ…」

眩しい笑顔に懐かしさと同時に自責の念が込み上げ、その想いを言葉にしようとしたが、
それは膝を折ったイリゼの抱擁により遮られた。

「それは仰らないでください。 私も、お婆さまのことが大好きですから」

慈しみに満ちた、あの頃と変わらないイリゼの姿に老婆は大粒の涙を流す。

「ありがとう、イリゼ…よく戻ってきてくれたね…」

しばらく抱き合ったままの二人の姿は、まるで心で語り合っているようであった。





この村を訪れた一行には、もう一つの目的があり、そのことを老婆に打ち明けながら広場へと向かう。

「あんた達なら、きっとやれるさ」

そう笑顔で応える老婆。

重すぎる使命から解き放たれた旅人達が描く小さな夢は、
かつて聖女達の辿った苦難の道を知る老婆を幸せな気持ちにさせたのだった。



この地に長く滞在したことのあるイリゼ達は、
広場に到着するまでの間に、いくつかの懐かしい面々との再会を果たす。


再会を喜び涙を流す者。

後悔の念から謝罪の言葉を口にする者。

想いを上手く伝えられず遠巻きに見つめるだけの者。

未だ聖女への失望から立ち直れぬ者。


広場に到着する頃には自然と人が集まり、
少女達が思い描く小さな夢の舞台は整っていた。





「私は、イリゼの娘、アールティヒです」


聖女の娘であるアールティヒに対して様々な感情が生まれたことは、
その身に流れくる風の変化から容易に感じ取ることができた。

その中には、かつて聖女へ寄せられたような期待も含まれていたのかも知れない。

しかし、希望を願う人々の心を理解しながらも少女が紡いだ言葉は、その期待を裏切るものであった。


「私には奇跡を起こせる力はありません」

「聖女と呼ばれたお母さんも、その娘である私も…みなさんと同じ、ただの人間なんです」


かつての過ちを悔い、その言葉に理解を示す者も多かったが、
落胆の色を滲ませる者もまた少なくはない。

それでも、人々の幸せを心から願う少女の想いが揺らぐことは決してなかった。



「だから…」



「詩を歌います」



「私達の想いを、みんなに届けます」



少女が祈りを捧げるように、ゆっくりと目を閉じ、両手を胸の前に重ねる。

すべてを慈しむような神聖な姿は、まるで聖女のように美しかった。

やがて、その想いを一人ひとりに届けるように、そっと手を差し伸べながら少女が詩を紡ぎ始める。





(Artig)
♪ この世界にある すべてに愛の詩を ♪



(Artig Rumina)
♪ 辛く悲しいことも あるべきものだから ♪



(Artig Rumina Tia)
♪ 悲しみを越えて 前を向いて生きよう ♪



(Artig Rumina Tia Innerlich)
♪ あるがままの世界で ありのまま生きよう ♪



(Artig Rumina Tia Innerlich Gent)
♪ もう なにも恐れず 想い込めて歌おう ♪



(Artig Rumina Tia Innerlich Gent Irisee)
♪ あなたの胸にある希望を抱いて ♪





大切な仲間と共に、なんの力も持たない詩を心を込めて歌う少女。

その温かな光景に広場に集まった人々は胸を打たれ、
それぞれが思いのままに、しかし調和を乱すことなく響き合う。



さあ、心をひとつに…





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